BLOCK PRINT / ブロックプリント



 


ほんの何世代か前まで、人は自然とともに暮らしてきた。

太陽や月の動きをみて暦を知り、季節ごとに取れたものを食べ、必要な物資を必要なだけ生産しながら。
そうやって何千年も、何万年も。

現代に暮らす私たちは、この百年ちょっとの間にたくさんのことを忘れ去ってしまったけれど、忘れられることなく、ずっと受け継がれていることもある。

この“ブロックプリント”という、インドの伝統的な染色(捺染)技法もそのひとつ。

そもそもインドは、布の国だ。
それは国旗の中心にある円形の図柄が、糸を紡ぐときに使われるチャルカー(糸車)がもとになっていることでもわかる。
英国の植民地支配によって瀕死の状態に陥っていた伝統的な綿工業は、マハトマ・ガンディーの登場とともに、独立運動の象徴的な存在を担っていく。
そんな中途切れることなく、古い歴史を連綿と紡いできたブロックプリント技法は、紀元前の古代インドではすでに行われていて、16世紀頃のマハーラージャ(王侯)たちが贅を尽くして着飾るために職人を保護したことで、大いに発展してきた。

そのすべての工程は手作業で行われ、機械は一切使わない。

インド北西部にあるジャイプール郊外の町サンガネールは、その伝統と技術を今に伝えるブロックプリントの一大生産地。
爽やかな花柄や地色の白い洗練されたプリントを得意としていて、Horn Pleaseのブロックプリント製品もここで生まれている。

ブロックとは木で作られたスタンプのことで、いわゆる木版のこと。
約15〜20cm四方の木片にオーダーされたデザインを彫り、染料をつけて布に押していく。
ブロックに使われるのは、チークやローズウッドなどの伸縮しにくい堅い木。使ったときに歪みがでてしまわないように、何年もしっかりと乾燥させたものを使う。
そこに、オーダーされたデザインをもとに職人が手作業で模様を彫っていく。
身近にある草花やペイズリー柄、幾何学模様に架空の動物など多種多様な柄に対応し、繊細で緻密な柄も見事に彫刻していくさまは、まさに熟練した職人のなせる技。
しかも使う色ごとに版を押していくため、色の数だけのブロックが必要になる。
例えばシンプルな「花」モチーフをデザインした場合、花びらを黄色にするなら花びらだけを彫ったブロック、葉っぱや茎を別の色にするならそれだけを彫ったブロック、そして全体の図柄の輪郭を彫ったブロック、といった風に。





すべてのブロックが整ったら、布に版を押していく。
次々と繋ぎ目なく押していって柄を連続させるのが、ブロックプリントの大きな特徴。
長い台に布生地を張り、そこに下絵なども使わずに直接ブロックを置いて、上からブロックの持ち手をトン、もしくはトントンと叩く。
ブロックには小さな空気孔がいくつも彫られており、叩くことで染料にできた気泡などが抜け、むらなくしっかりと色がのる。
ひとつ押したらブロックを染料につけ、前の柄と隙間なく繋がるように慎重に布の上で合わせて、またブロックを押す。
この作業を色ごとにひたすら繰り返して、一つの柄を完成させていく。
オーダー数や使う色によっては、何千回何万回とブロックを押していくことに。

作業場には、版をついていく軽快な音が響く。
インドのどこか大らかでのんびりとした雰囲気とは違う、凛とした程よい緊張感。その乱れることのない一連の流れの後には、万華鏡のような美しい色彩が広がってゆく。

使用する染料は、季節や気候、湿度や気温によって生地への色の出方や仕上がりが違ってくる。職人たちはその都度染料の調合を変え、ブロックを押す力も微妙に加減していく。
それでも日干しの日照時間が十分でなければ、仕上がりの色は変わってしまう。日差しが強すぎてもいけないし、弱すぎてもうまく染まらない。
雨の日は乾かないので、作業自体が休みとなる。
だから職人たちは、朝の空気や風で天気を読むことにも長けている。
それはまるで、潮の流れや月の満ち欠けに合わせて舟を出す漁師のように。

彼らは自然のリズムとともに生き、気候に合わせて働く。
もちろん雨季のシーズンは出来上がるまでに時間がかかるし、お祭りの前はそっちの準備に忙しかったりなど、現代社会のリズムとはそもそも合っていないのかも知れない。
それは、彼らにオーダーした商品の納期が遅れまいかと気をもみつつ、日々のスケジュールに忙殺されながら日本で待つ私たちの姿とは対照的だ。

それでも、やがて届いた布を見たときに、私たちはいつも感動することになる。

柄をよく見ると、色がすこしはみ出ていたり、かすれたり、にじんでいたり。見る場所によっては微妙にずれているときもある。
それらはまるで呼吸をしているかのような表情を柄にもたらし、永遠に連続していくかのような、生きた色彩美が目の前に広がる。
こればっかりは、機械プリントでは決して味わえない。

このプリントが教えてくれることを、私たちは大切にしていきたい。

 

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